岩手県のお茶栽培は、17世紀初めに伊達政宗が奨励したことを起点とし、仙台藩領内を中心に広がった歴史を持ちます。ただし、寒冷な気候条件の影響もあり、全国的な大産地へと発展することはなく、長らく自家消費を目的とした栽培が中心でした。各家庭で少量ずつ育てられ、日々の暮らしに寄り添う飲み物として親しまれてきた点が岩手のお茶文化の特徴といえます。
近代以降も大規模化は進まず、地域の風土と共に静かに受け継がれてきました。こうした背景から、岩手県のお茶は量よりも土地の記憶や人の営みを映す存在として位置づけられています。日本茶の多様性を考えるうえで、欠かすことのできない地域の一つです。
岩手県沿岸部の茶産地は、東日本大震災によって大きな被害を受けました。茶園や加工施設が被災し、産地の存続そのものが危ぶまれた時期もありました。しかし、生産者や地域関係者の努力により、少しずつ再生への道が切り開かれていきます。2017年には製茶の再開にこぎ着け、再び岩手県産茶が人々の手に届くようになりました。
復興の過程では、無理な拡大を目指すのではなく、地域に根ざした持続可能な栽培が重視されています。自然環境と向き合いながら、できる範囲で丁寧に作る姿勢が、現在の岩手県のお茶づくりを支えています。その一杯には、復興への想いと地域の誇りが静かに込められています。
気仙茶は、大船渡市や陸前高田市、住田町周辺で生産されるお茶です。工場での製茶を行っている茶園としては最北とされ、寒冷地ならではの環境で育まれています。主な品種はやぶきたで、無農薬栽培に取り組む生産者が多い点も特徴の一つです。地元農協が茶葉を買い取り、「けせん茶」の名称で県内を中心に流通しています。
味わいは、穏やかな旨みと素朴な風味が印象的で、派手さはありませんが飲み続けるほどに良さが伝わります。岩手の自然と人の手仕事が重なり合って生まれた気仙茶は、地域文化を映す存在といえるでしょう。静かに寄り添うような日本茶を求める方にこそ味わってほしい一杯です。




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