【日本茶コラム】冬支度はお茶じたくから
【日本茶コラム】冬支度はお茶じたくから
― 湯気の向こうに、冬の気配 ―
11月も半ばを過ぎると、日暮れが一段と早くなり、朝晩の冷え込みが肌にしみるようになります。
街路樹の葉が風に舞い、遠くの山々はうっすらと冬の色をまとい始めるころ。
季節はゆっくりと、確実に冬へと歩みを進めています。
そんな晩秋のひとときに恋しくなるのが、湯気の立つ一杯の日本茶です。
急須に茶葉を入れ、湯を注ぐと、ふわりと立ちのぼる香り。湯呑みを手に取れば、じんわりと掌に伝わる温もり。
冷えた指先を包み込むその瞬間に、心もほっとほどけていくような気がします。
お茶を淹れる時間は、ほんの数分かもしれません。
しかし、その短いひとときが、日々の暮らしに静かな潤いをもたらしてくれます。
この時期におすすめなのは、香ばしさが際立つほうじ茶や、
まろやかな旨味をもつ深蒸し煎茶。
ほうじ茶は焙煎香が心地よく、カフェインも少ないため、
夜のリラックスタイムにもぴったりです。
一方の深蒸し煎茶は、じっくり蒸して作られる分、渋みが抑えられ、甘みとコクがしっかり。
食後のお茶としても楽しめます。
どちらも湯を注ぐたびに香りが立ち、季節の深まりを感じさせてくれる存在です。
また、日本茶には健康を支える力もあります。
煎茶に多く含まれるカテキンは抗酸化作用に優れ、風邪やウイルスの予防に役立つといわれています。
さらにビタミンCも豊富で、乾燥の季節にうれしい美肌効果も期待できます。
まさに、お茶は「飲む冬支度」。
冷たい空気に包まれる季節だからこそ、体の内側から整える一杯を意識してみたいものです。
湯気の立つ急須の向こうに、冬の気配を感じながら、お茶の時間をゆっくりと楽しむ。
お気に入りの茶器を用意して、湯の温度を少し低めにし、丁寧に淹れてみましょう。
急須の中で茶葉がゆるやかに開いていく様子は、まるで小さな自然の風景を覗き込むようです。
外では木枯らしが吹き始め、部屋の中ではストーブやこたつが活躍する季節。
そんな冬の入口に、「お茶じたく」を整えることは、心を整えることでもあります。
慌ただしい年の瀬を迎える前に、ひと息つく時間を持つこと。
それが、冬を迎えるための何よりの準備かもしれません。
ほうじ茶の香ばしさ、深蒸し煎茶のまろやかさ、玄米茶の懐かしい香り。
どんなお茶にも、その香りの奥には人の温もりや四季の記憶が宿っています。
この晩秋、あなたの「お茶じたく」は整いましたか?
温かい一杯とともに、冬のはじまりを穏やかに迎えてください。